ライスナー・ノルドシュトロム解

目次

概要

 球対称で静的な質量分布を持つ天体が外部に作る重力場は、よく知られているようにSchwarzschild解で表されます.もしも天体が電荷を持つ場合には,その電磁場エネルギーもEinstein方程式の右辺のエネルギー・運動量テンソルに寄与するため,その分,時空間は捻じ曲げられます.このような静的で電荷を持ちかつ球対称な天体がなす重力場の方程式の解はライスナー・ノルドシュトロム解 (Reissner-Nordström solution)と呼ばれています.歴史的には,Hans Reissner (1916),Hermann Weyl (1917),Gunnar Nordström (1918),George Barker Jeffery (1921) によって独立に発見されたようですが,なぜかWeylとJefferyの功績が名前から抜けています.

 以下,電荷 \(q_0\) を持つ質量 \(m\) の質点作り出す重力場方程式の解を考えてみましょう.

ライスナー・ノルドシュトロム解の導出

アインシュタイン方程式

 まず,Schwarzschild解を導いたときとまったく同じように,静的で球対称という仮定から計量 \(g_{\mu\nu}\) を
\begin{align}
ds^2 = -e^{2\alpha(r)} c^2dt^2 + e^{2\beta(r)}dr^2 + r^2\left( d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2 \right) \tag{1}
\end{align}
と置くことを出発点にします.ここで,\( \alpha \) と\(\beta\) は動径座標 \(r\) のみに依存する関数です(静的な重力場のため \(t\) には依存せず,また球対称の仮定のため \(\theta, \phi\) の依存性もないです) .電荷を持つ場合のEinstein方程式は,左辺のエネルギー運動量テンソル \( T_{\mu\nu} \) を電磁場のエネルギー運動量テンソルとして
\begin{align}
&G_{\mu\nu} = R_{\mu\nu} – \dfrac{1}{2}g_{\mu\nu} R =\kappa T_{\mu\nu} \tag{2} \\
&\kappa = \dfrac{8\pi G}{c^4}, \tag{3} \\
&T_{\mu\nu} = \dfrac{1}{\mu_0} \left( F_{\mu}^{ \ \ell} F_{\nu \ell} – \dfrac{1}{4} g_{\mu\nu}F^{\alpha\beta}F_{\alpha\beta} \right) \tag{4}
\end{align}
と表せます.電磁場のトレースが0であること,
\begin{align}
T = g^{\alpha\beta} T_{\alpha\beta} = \dfrac{1}{\mu_0} g^{\alpha\beta} \left( F_{\beta}^{ \ \ \ell} F_{\alpha \ell} – \dfrac{1}{4} g_{\beta\alpha}F^{\gamma\delta}F_{\gamma\delta} \right) = 0 \tag{5}
\end{align}
に注目すると,(2) 式の両辺に \( g^{\mu\nu} \) を作用させることで \(R=0\) が得られます.したがって,解くべき方程式はよりシンプルに
\begin{align}
R_{\mu\nu} =\kappa T_{\mu\nu} \tag{6}
\end{align}
となります.以下,この左辺のリッチテンソル \( R_{\mu\nu} \) と右辺のエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu}\) をそれぞれ計算し,最後にこれらを合わせて解を求めていきます.

左辺の計算

 左辺のリッチテンソルの計算はSchwarzschild解のときと全く同じです.いろいろな本に載っているので計算は省略することにして,計量 \( g_{\mu\nu} \) は,
\begin{align}
&g_{00} = -e^{2\alpha} , \ g_{11} = e^{2\beta} , \ g_{22} = r^2, \ g_{33} = r^2\sin^2\theta, \tag{7}\\
&g^{00} = -e^{-2\alpha} , \ g^{11} = e^{-2\beta} , \ g^{22} = \dfrac{1}{r^2}, \ g^{33} = \dfrac{1}{r^2\sin^2\theta} \tag{8}
\end{align}
また,リッチテンソルの \( \neq 0\) 成分は,
\begin{align}
R_{00} &= e^{2(\alpha-\beta)} \left[ \alpha^{\prime\prime} + \dfrac{2\alpha’}{r} + \alpha’\left(\alpha’-\beta’\right) \right], \tag{9}\\
R_{11} &= -\alpha^{\prime\prime} + \dfrac{2\beta’}{r} – \alpha’\left(\alpha’-\beta’\right), \tag{10}\\
R_{22} &= 1-e^{-2\beta}\Big[1 + r\left( \alpha’-\beta’\right)\Big], \tag{11} \\
R_{33} &= R_{22}\sin^2\theta \tag{12}
\end{align}
となります.これ以外の成分はすべて0です.

右辺の計算

電磁場テンソル

 次に,右辺のエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu} \) を計算していきます.今,時空は静的で球対称の仮定をおいているため,電磁場としては動径方向 \(r\) 成分の電場 \(E(r)\) のみが存在し \( \theta, \phi\) には依存しないです.したがって,電磁場テンソル \(F^{\mu\nu}\) は
\begin{align}
F^{\mu\nu} = \left(\begin{array}{cccc} 0 & -\dfrac{E(r)}{c} & & \\ \dfrac{E(r)}{c} & 0 & & \\ & & 0 & \\ & & & 0 \end{array} \right) \tag{13}
\end{align}
となります.ここで,成分を明記していない非対角成分はすべて0です.電場 \(E(r)\) の具体形は電磁場の方程式であるマクスウェル方程式を解くことで導くことができますが,この作業は後ほど行うことにします. (13)式を (7)式を使って,添字を下げると,下記のように行列計算で求めることができます:
\begin{align}
F_{\mu\nu}
&= g_{\mu \alpha}F^{\alpha\beta}g_{\beta\nu} \\
&= \left(\begin{array}{cccc} -e^{2\alpha(r)} & & & \\ & e^{\beta(r)} & & \\ & & r^2 & \\ & & & r^2 \sin^2 \theta \end{array} \right)
\left(\begin{array}{cccc} 0 & -\dfrac{E(r)}{c} & & \\ \dfrac{E(r)}{c} & 0 & & \\ & & 0 & \\ & & & 0 \end{array} \right)
\left(\begin{array}{cccc} -e^{2\alpha(r)} & & & \\ & e^{\beta(r)} & & \\ & & r^2 & \\ & & & r^2 \sin^2 \theta \end{array} \right) \\
&= e^{2\left(\alpha(r) + \beta(r) \right)} \dfrac{E(r)}{c} \left(\begin{array}{cccc} 0 & 1 & & \\ -1 & 0 & & \\ & & 0 & \\ & & & 0 \end{array} \right) \tag{14}
\end{align}
\(F^{\mu \nu}\) と \(F_{\mu\nu}\) いずれも \(4 \times 4\) 行列の成分のうち,左上の \(2 \times 2\) 小行列以外の成分はすべて0です.そこで,すべての成分を明記するのは面倒ですので,\(F^{\mu \nu}\) と \(F_{\mu\nu}\) を
\begin{align}
&F^{\mu\nu} \equiv \dfrac{E(r)}{c} \left(\begin{array}{cc} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{array} \right)_{tr}, \tag{15} \\
&F_{\mu\nu} \equiv e^{2\left(\alpha(r)+ \beta(r) \right)} \dfrac{E(r)}{c} \left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{array} \right)_{tr} \tag{16}
\end{align}
のように左上の \(2 \times 2\) 小行列で表すことにしましょう.

エネルギー・運動量テンソル

 電磁場テンソル \(F^{\mu\nu}\) が求まりましたので,次にエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu} \)を計算していきます.その準備として (4) 式を計算することを見越して \(T_{\mu\nu} \)を構成する \( F_{\mu}^{ \ \ell} F_{\nu \ell} \) と \( F^{\alpha\beta}F_{\alpha\beta}\) を先に計算しておきます:
\begin{align}
F_{\mu}{}^{\ell} F_{\nu \ell} &= -g_{\mu\rho} F^{\rho\ell} F_{\ell\nu} \\
&= -\left[ e^{\alpha + \beta } \dfrac{E}{c} \right]^2 \left(\begin{array}{cc} -e^{2\alpha} & 0 \\ 0 & e^{\beta} \end{array} \right)_{tr} \left(\begin{array}{cc} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{array} \right)_{tr} \left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{array} \right)_{tr} \tag{17} \\
&= -\left[ e^{ \alpha + \beta } \dfrac{E}{c} \right]^2 \left(\begin{array}{cc} -e^{2\alpha} & 0 \\ 0 & e^{\beta} \end{array} \right)_{tr} \\
F^{\alpha\beta}F_{\alpha\beta} &= -2\left[ e^{ \alpha + \beta } \dfrac{E}{c} \right]^2 \tag{18}
\end{align}
以上より,(17) 式と (18)式 を (4)式に代入すると,電磁場のエネルギー運動量テンソルは
\begin{align}
T_{\mu\nu}
&= \dfrac{1}{\mu_0} \left( F_{\mu}{}^{\ell} F_{\nu \ell} – \dfrac{1}{4} g_{\mu\nu}F^{\alpha\beta}F_{\alpha\beta} \right) \\
&= \dfrac{1}{\mu_0} \left[ e^{ \alpha + \beta } \dfrac{E}{c} \right]^2
\left(
\left(\begin{array}{cccc} -e^{2\alpha} & 0 & & \\ 0 & e^{\beta} & 0 & \\ & & & 0 \end{array} \right) +
\dfrac{1}{2}\left(\begin{array}{cccc} e^{2\alpha} & & & \\ &- e^{\beta} & & \\ & & r^2 & \\ & & & r^2 \sin^2 \theta \end{array} \right) \right) \\
&= \dfrac{1}{2\mu_0} \left[ e^{ \alpha + \beta } \dfrac{E}{c} \right]^2
\left(\begin{array}{cccc} e^{2\alpha} & & & \\ & – e^{\beta} & & \\ & & r^2 & \\ & & & r^2 \sin^2 \theta
\end{array} \right) \tag{19}
\end{align}
と求めることができました.

電場

 次に,保留していた電場 \(E(r)\) の具体的な形を求めていきます.これは電磁場の方程式であるマクスウェル方程式\(\partial_\nu F^{\mu\nu} = \mu_0 j^\mu\) を解くことで得られます:
\begin{align}
\sqrt{-g} = \sqrt{- \det g_{\mu\nu}} = e^{\alpha+\beta}r^2\sin\theta \tag{20}
\end{align}
マクスウェル方程式の \(\mu=0\) 成分は,静的仮定より,\(j^1 = j^2 = j^3 = 0\) となるので,
\begin{align}
& 0 = \partial_\nu \boldsymbol{F}^{0\nu} =\partial_1 \left( \sqrt{-g} F^{01} \right) = \partial_1 \left( \dfrac{E}{c} e^{\alpha+\beta} r^2\sin\theta \right) \\
& \Rightarrow \ \ 0 = \partial_1 \left( E e^{\alpha+\beta} r^2 \right) \\
& \Rightarrow \ \ \epsilon = E e^{\alpha+\beta} r^2 \\
& \Rightarrow \ \ E\left(r\right) = e^{-\left(\alpha+\beta\right)}\dfrac{\epsilon}{r^2} \tag{21}
\end{align}
計算できます.ここで \(\epsilon \) は積分定数です.

最終形

 以上より,アインシュタイン方程式の右辺は
\begin{align}
\kappa T_{\mu\nu} = \dfrac{\kappa \epsilon_0 \epsilon^2}{2r^4}
\left(\begin{array}{cccc} e^{2\alpha} & & & \\ & – e^{\beta} & & \\ & & r^2 & \\ & & & r^2 \sin^2 \theta \end{array} \right) \tag{22}
\end{align}
と計算ができました.

全体の計算

アインシュタイン方程式

 最後に,アインシュタイン方程式の左辺のリッチテンソル (9) – (12) 式と,右辺のエネルギー運動量テンソル (22) 式の等号を結ぶことで,最終的に成立すべき方程式を導きます.これは具体的には下記の通りになります:
\begin{align}
(0 \ 0) \ \text{成分} \ &\cdots \ e^{2(\alpha-\beta)} \left[ \alpha^{\prime\prime} + \dfrac{2\alpha’}{r} + \alpha’\left(\alpha’-\beta’\right) \right]=\kappa \epsilon_0 \epsilon^2 \dfrac{e^{2\alpha}}{2r^4} \tag{23} \\
(1 \ 1) \ \text{成分} \ &\cdots \ -\alpha^{\prime\prime}+ \dfrac{2\beta’}{r} – \alpha’\left(\alpha’-\beta’\right) =-\kappa \epsilon_0 \epsilon^2 \dfrac{e^{2\beta}}{2r^4} \tag{24} \\
(2 \ 2), (3 \ 3) \ \text{成分}\ & \cdots \ 1-e^{-2\beta}\big[1 + r\left( \alpha’-\beta’\right)\big]=\kappa \epsilon_0 \epsilon^2 \dfrac{1}{2r^4}\tag{25}
\end{align}
\( (23) \times e^{-2(\alpha-\beta)} + (24)\)より,
\begin{align}
\alpha’ + \beta’ = 0 \ \ \Rightarrow \ \ \alpha + \beta = 0 \tag{26}
\end{align}
ここで,無限遠 \( r \to \infty \) で計量 (1) がミンコフスキー計量 \( ds^2 = -c^2dt^2 + dr^2 + r^2\left( d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2 \right) \)に一致すること,すなわち \(\alpha \xrightarrow{ r \to \infty } 0, \ \beta \xrightarrow{ r \to \infty } 0\)を用いました.(26) 式より\( \beta = -\alpha \) が成立します.これをまだ使っていなかった (25) 式に代入すると,
\begin{align}
(25) \ &\Rightarrow \ 1-e^{2\alpha}\big[1 + 2r \alpha’ \big]=\kappa \epsilon_0 \epsilon^2 \dfrac{1}{2r^4} \\
&\Rightarrow \ e^{2\alpha} + r \left( e^{2\alpha} \right)’ = 1 – \kappa \epsilon_0 \epsilon^2 \dfrac{1}{2r^4} \\
&\Rightarrow \ \left(r e^{2\alpha} \right)’ = 1 – \kappa \epsilon_0 \epsilon^2 \dfrac{1}{2r^4} \\
&\Rightarrow \ e^{2\alpha} = 1 – \dfrac{r_s}{r} + \dfrac{\kappa\epsilon_0 \epsilon^2}{2} \dfrac{1}{r^2} \tag{27}
\end{align}
と変形ができます.ここで\(r_s\) は積分定数です.

 次に,積分定数の \( \epsilon\) を求めましょう.これはもともと(21)式で導入されたもので,(26)式を代入すると \(E(r) = \epsilon/r^2 \) となります.質点が電荷を持つとすれば定数 \(\epsilon\) は,電磁気学で習った通り \( \epsilon = q_0 / 4\pi \epsilon_0\) となります.

ライスナー・ノルドシュトロム解

 以上より,
\begin{align}
& ds^2 = -\left(1 – \dfrac{r_s}{r} + \dfrac{q^2}{r^2} \right) c^2dt^2 + \dfrac{1}{\left(1 – \dfrac{r_s}{r} + \dfrac{q^2}{r^2} \right)} dr^2 + r^2\left( d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2 \right), \tag{28} \\
&q^2 \equiv \dfrac{\kappa\epsilon_0 \epsilon^2}{2} = \dfrac{Gq_0^2}{4\pi \epsilon_0 c^4} \tag{29}
\end{align}
となります.これをライスナー・ノルドシュトロム解と呼びます.ここで,\(q_0=0\) のときはSchwarzschild解と一致するので,定数\( r_s \) はSchwarzschild半径 \(r_s= \frac{2Gm}{c^2} \) となることがわかります.

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この記事を書いた人

物理から足を洗いましたが、手書きノートが家に大量にあるため、後学のため少しずつ記事にしていこうと思います。更新頻度はとてもゆっくりです。

Eメール:mogumogu[at]harimogu.jp

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