電磁場のゲージ変換

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概要

 マクスウェル方程式は,ここで議論したように,4元ポテンシャル \(A^{\mu}\) から構成される電磁場テンソル \(F^{\mu\nu}\) を用いて下記のように書き表せます:
\begin{align}
&F^{\mu\nu} = \partial^{\mu} A^{\nu} – \partial^{\nu} A^{\mu}, \tag{1}\\
&\partial_{\nu} F^{\mu\nu} = \mu_0 j^{\mu} \tag{2}
\end{align}
ここでは,このマクスウェル方程式を満たす4元ポテンシャル \(A^{\mu}\) は一意には定まらず,ゲージ変換 (gauge transformation) と呼ばれる変換に対して,マクスウェル方程式が不変であることを示していきます.

ゲージ変換


 任意の実関数 \(\chi\left(x\right)\) に関してゲージ変換は
\begin{align}
A’^{\mu} = A^{\mu} + \partial^{\mu} \chi \tag{3}
\end{align}
と定義されます.\( A’^{\mu}\) はゲージ変換後の4元ポテンシャルです.まずゲージ変換のもとでマクスウェル方程式が不変であることを示しましょう.(3) 式を,電磁場テンソル (1) 式に代入をすると
\begin{align}
F’^{\mu\nu}{}
&= \partial^{\nu} \left(A^{\mu}+\partial{^\mu} \chi \right) -\partial{^\mu}\left(A^{\nu} + \partial^{\nu} \chi \right) \\
&= F^{\mu\nu} + \left(\partial^{\nu} \partial^{\mu} – \partial^{\mu} \partial^{\nu} \right)\chi \\
&= F^{\mu\nu} \tag{4}
\end{align}
となり,ゲージ変換の下で電磁場テンソル \(F^{\mu\nu}\) が不変であることがわかりました.したがって,(2) 式のマクスウェル方程式もゲージ変換 (3) に対して普遍になります.このように,4元ポテンシャル \( A’^{\mu}\) が任意の実関数 \(\chi\left(x\right)\) 分だけ持つ自由度のことをゲージ自由度と呼びます.この自由度は,いろいろな式変形が簡単になるように適当な関数を選ぶことで固定されます.この条件をゲージ条件と呼びます.よく使用されるゲージ条件としては次の2種類があります.

ローレンツゲージ

 ローレンツゲージ (Lorenz gauge)では,任意の実関数 \(\chi\) を
\begin{align}
\Box \chi = -\partial_{\nu} A^{\nu} \tag{6}
\end{align}
を満たすように選びます.すると,(6) 式のもとでは,\(\partial_{\nu} A’^{\nu} =\partial_{\nu} \left( A^{\mu} + \partial^{\mu} \chi \right) = \partial_{\nu} A^{\nu} + \Box \chi = 0\) より,
\begin{align}
\partial_{\nu} A’^{\nu} = 0 \tag{7}
\end{align}
が成り立ちます.具体的な成分で表すと,\(\partial_{\nu} = \left( \frac{1}{c} \partial_t, \boldsymbol{\nabla} \right) \) と \( A^{\nu} = \left(\phi, \boldsymbol{A} \right) \) より,
\begin{align}
\dfrac{1}{c} \dfrac{\partial \phi}{\partial t} + \boldsymbol{\nabla} \cdot \boldsymbol{A} = 0 \tag{8}
\end{align}
となります.このように (6) 式のローレンツゲージ条件を課すことで4元ベクトルポテンシャル \(A^{\mu}\) の独立成分は4個から3個に減ります.ただし,電磁場の物理的自由度は2個であるため,ローレンツゲージでは \(A^{\mu}\) はまだ一意に定まらないことに注意が必要です.

 (2) 式のマクスウェル方程式は,このローレンツゲージ条件のもとでは4元ポテンシャル \( A’^{\mu}\) の波動関数に帰着します.実際,
\begin{align}
\Box A^{\mu} = -\mu_0 j^{\mu} \tag{9}
\end{align}
が成り立ちます.ここから電磁場が光速度 \(c\) で伝播する波であることが示唆されます.ただし,ゲージの選びから電磁場が波として振る舞うというわけでありません.実際に,ここの (6) 式と (7) 式より,電磁場テンソル \(F^{\mu\nu}\) は \( \Box F^{\mu\nu} = -\mu_0 \left(\partial^{\mu} j^{\nu} – \partial^{\nu} j^{\mu} \right)\) の波動方程式の解となります.これはゲージの選びには依存をしていないです.

クーロンゲージ

 ローレンツゲージに加えて,さらに実関数 \(\chi \) に \(\partial \chi / \partial t = -\phi\) の条件を課します.これをクーロンゲージ条件 (Coulomb gauge condition) といいます.すると,\(A’^0 = A^0+\partial^0 \chi = 0\)より,\(\phi = 0\).また,\(\partial_{\nu} A^{\nu} = \partial_0^2 \phi + \boldsymbol{\nabla}\cdot\boldsymbol{A} = 0\) より\(\boldsymbol{\nabla}\cdot \boldsymbol{A} = 0\) が成立します.したがって,クーロンゲージをとるとき,
\begin{align}
&\phi = 0 , \tag{10} \\
&\boldsymbol{\nabla}\cdot \boldsymbol{A} = 0 \tag{11}
\end{align}
が成り立ちます.

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この記事を書いた人

物理から足を洗いましたが、手書きノートが家に大量にあるため、後学のため少しずつ記事にしていこうと思います。更新頻度はとてもゆっくりです。

Eメール:mogumogu[at]harimogu.jp

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